2012年05月09日
宮沢賢治とステッドラー
昨年末、中野の旅屋で行われた、たいみちさんの『旅する古文具市~時代を旅してきた文房具~』。
そこで、譲っていただいたステッドラーの古い木軸のエクステンダー。
今回の古文房具の魅力展でも、同じものがまだ残っているのを発見。
思わず2本とも連れ帰ってしまった。

ところで、ステッドラーといえば先日面白いことを聞いた。
あの宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に、ステッドラーが登場するというのである。
そこで、図書館で資料を借りてきた。

『銀河鉄道の夜』は、1924年頃から10年にわたって賢治本人の手によって何回も改稿が繰り返された。
現在は様々な研究の結果、第一次稿から第四次稿に大別されている。
現在目にする童話や、文庫本になっているのは最終型の第四次稿が中心で、
第三次稿以前に出てくる記載はあまり目にすることはない。
問題の『ステッドラー』の記載は、その第三次稿に登場する。

ぼくはどうして、カムパネルラのやうに生れなかったらう。カムパネルラなら、ステッドラーの色鉛筆でも何でも買へる。それにほんたうにカムパネルラはえらい。せいだって高いしいつでもわらってゐる。
主人公のジョバンニが、裕福で人望もあるカムパネルラを羨むシーンである。
賢治がこれを執筆していた当時、ドイツのステッドラー社の事務所が大阪にできたりして、
日本でもステッドラーブランドが馴染み深くなってきていたと想像できる。
ただ、『ステッドラーの色鉛筆』はまだ一般的には高価であって、少年たちの憧れの的であったことが伺える場面である。
それより何より、宮沢賢治のあの有名な『銀河鉄道の夜』に具体的な企業名が出てくることに驚く。
そんなステッドラーの色鉛筆を今では気軽に使えることに、感謝すべきなのであろう。
