2011年08月22日
パイロット65との出会い
旅先で親父の訃報を受けた。
74年という決して長いとはいえない生涯であったが、
恐らく幸せな人生だったに違いない。
この1週間多くの方々と話し、それが分かったような気がする。
遺品を整理していたら、戸棚の奥から1本の万年筆が出てきた。
PILOT製。黒いボディに金色のクリップとリング。
何となく品のある佇まいである。

親父が万年筆を使っているのを見たことはなかったが、
ペン先がインクで汚れており、インクを吸入した痕も見られるので、
試しに使ってみたことがあったのだろう。
そのまま戸棚の奥にほっぽらかしておいたに違いない。
簡単に洗浄してからインクを吸入し、書いてみると
これが何とも言えない書き味なのである。
大きめのペン先が独特の弾力を生み出し、インクの出も滑らかである。

改めて見てみると、キャップのリングには何やら複雑な模様と65という数字がデザインされている。
その横には、製造番号らしき4桁の数字が刻まれている。

!?
これはもしかしたら・・・。
調べてみると、やっぱり!
何とパイロットが1983年に創業65周年を記念して発売した、
『パイロット65』と呼ばれる名品なのであった。
周年記念モデルがいくつかあることは知っていたが、見たことも調べたこともなかったので、
まさか無造作に放り出されていたこれが、そんな貴重なものとは考えもしなかったのである。
パイロット 創業65周年記念モデル

ペン先にはイリドスミンを溶着し、抜群の耐磨耗性を実現。
そのペン先は、パイロットの技術顧問である大坂氏自ら1本1本調整して仕上げた。
インクの吸入はプッシュダウン式の新開発機構を採用。
大容量で耐久性にも優れている。
キャップのリングの模様は、法隆寺の玉虫厨子に見られる、忍冬文。
65の横には個々の製造番号が刻まれた。
などが調べてみて分かった。
何とも大変なお宝が眠っていたものである。
この話には続きがある。
パイロット65について調べている中で、『万年筆クロニクル』という本に、
このパイロット65が、2ページにわたって紹介されているということを知った。
『万年筆クロニクル』 枻出版社
万年筆収集家のすなみまさみち氏と、万年筆画家の古山浩一氏の共著。
これ実は、以前からweekend booksに捜索願を出してあった本だったのである。
さらに驚いたことに、久々に開いたOutlook Expressにweekend booksからのメールが1通。
件名は、「万年筆クロニクル」入荷のお知らせ。
何と万年筆発見の翌日のメールである。
捜索願を出したのは、はっきり覚えていないが3、4ヶ月は前のはず。
それが何故このタイミングで見つかったのか?
不思議としか言いようがない。
早速今日譲っていただいた。
万年筆と共に一生の宝になるであろう。

大切にしよう。