2014年02月02日
命綱を握る男
華やかなスポットライトに照らされて躍動するパフォーマー。
観客の視線は彼女に釘付けである。
息を呑むアクロバット。
客席から洩れる歓声と溜息。
だがしかし、暗闇にうずくまる黒い影に気づく人はほとんどいない。
闇にまぎれて表情までは見えないが、その背中からは緊迫感が確かに伝わってくる。
パフォーマーの命綱。
それを握る男がいる。
激しい動きに合わせて、綱を引いたり送ったりする。
演技を邪魔しないその絶妙な呼吸の妙に思わず息を呑む。
命綱。
まさかの時のために備えるだけではなさそうだ。
地上の彼から空中の彼女までの距離は10メートル近くはあるであろうか。
しかし、彼の支えは間違いなく1本の綱を伝って彼女に届いている。
彼女の自信溢れるパフォーマンスは、彼への絶対的な信頼があるからこそ成り立っているのである。
スポットライトの届かない暗闇で黙々と仕事をする男を、
演技中ずっと見ていたのは自分だけであろうか。
