2013年07月06日
手風琴を鳴らして
今日読み終わった小説の中の一節。
僕はチェロと太鼓にはさまれたところに転がっている手風琴に目をとめて、それを拾いあげてみた。
手風琴?
家にあるあれだなあ。
昔風に鍵盤のかわりにボタンがついている。蛇腹の部分は固くこわばってところどころに細いひびが入っていたが、見たところ空気は洩れていないようだった。
おお、なんか似てるなあ。
僕は両側のベルトに手を入れて何度か伸縮させてみた。思っていたより大きく伸縮させなければならなかったが、キイがうまく働けばなんとか使えそうだった。手風琴というのは空気さえ洩れていなければ故障の少ない楽器だし、それに空気が洩れていても比較的簡単に修理することができる。
久しぶりにちょっと、鳴らしてみる。
そして、物語の終盤にはこんな件(くだり)が。
「唄じゃなくてもいいわ。その手風琴の音を少しだけでも私に聴かせてくれることはできる?」
「できるよ」と僕は言った。そして書庫を出てストーヴのわきにかかったコートのポケットから手風琴をとりだし、それを持って彼女のとなりに座った。両方の手をパネルについたバンドにはさみ、いくつかのコードを弾いてみた。
「とてもきれいな音だわ」と彼女は言った。「その音は風のようなものなの?」
「風そのものさ」と僕は言った。「いろんな音のする風を作りだして、それを組みあわせているんだ」
風そのもの・・・。
いい表現だなあ。
たまには鳴らしてあげよう。